プログラム
「医療安全管理~その考え方と取組みについて~」
第五次医療法改正(2007年)で医療安全管理体制の義務化が決定。
これ以降、各医療機関では年二回程度の院内研修の実施やマニュアル整備などが必要となった。医療におけるリスクマネジメントの考え方とは何か、また、最近の医事紛争や現場で起こりうる医療事故の事例を参考にその対策方法について言及する。

前田 稔夫 氏
1984年医薬品卸に入社。翌々年、千寿製薬株式会社へ転籍。
MMS部配属。以後、35年以上に渡って全国数百軒余りの眼科経営のコンサルタント活動に従事。現在、四国地方と京阪神地区を担当。大阪府在住
「屈折異常に関連する弱視・斜視~初級・中級~」
眼科において、最も多い疾患は屈折異常である。屈折異常を大別すると近視、遠視、乱視、老視があり、その多くは眼鏡やコンタクトレンズによる屈折矯正で良好な視力を得ることができる。
屈折矯正で良好な視力が得られる背景には、視覚の感受性期(1歳半~10歳頃)とよばれる視力の可塑性がみられる期間に、鮮明な像が脳内へ伝達されたことで視力の正常な発達が促された経験があったためである。しかし、この視覚の感受性期に屈折異常などが原因で鮮明な像が脳内に伝達できず正常な視力の発達が滞れば、機能弱視(不同視弱視や屈折異常弱視)を発症し、屈折矯正で良好な視力を得ることができなくなる。
このように、視覚の感受性期は、視的環境によって視力の発達が変化する性質を持っているため、機能弱視の原因となりうる屈折異常があれば、予防の観点から屈折矯正による治療・訓練を行う必要がある。また、機能弱視を発症した場合でも、視覚の感受性期内で早期に発見して、屈折矯正や健眼遮閉など適切な治療・訓練へつなげることができれば良好な視力を獲得することができる。そのため、眼科における小児の検査では、年齢に応じた視力の発達や屈折の程度を念頭において評価することが、生涯にわたって正常な視力を維持させるために重要なポイントとなる。
また、屈折異常は機能弱視だけでなく斜視の発症を誘発させる原因にもなり得る。中等度以上の遠視では、明視努力によって調節性輻湊が過剰となり、屈折性調節性内斜視を発症することがある。屈折性調節性内斜視の多くは完全屈折矯正によって良好な眼位と両眼視を維持することができるが、発見や治療が遅くなると不良になることがあるため、屈折のみならず眼位の確認も必要になる。特に初期では間欠性に内斜視の場合もあるため、屈折検査と視力検査だけでは見逃しやすいので注意する必要がある。

米田 剛 先生
「見えにくい方のために出来ること~ロービジョンケア~」
眼科にはいろんな「見えにくい方」が受診されます。見えにくさの原因を調べ、治療するのが眼科診療ですが、残念ながら治療しても視機能が改善しない、または悪化する方もおられます。その患者さんに残った視機能を活用してできるだけ快適な生活を送る方法や支援法などのロービジョンケアについてお話しします。
一般にロービジョンケアといえば、ルーペを処方したり、拡大読書器を紹介したりということをイメージするかもしれません。もちろん大切なことですが全ての眼科クリニックでそれらができるわけではありません。ロービジョンケアは見えにくい方に対して様々な面から行われる支援の総称です。医療的・教育的・職業的・社会的・福祉的・心理的な支援を含みます。見えにくい方が眼科を受診された際にロービジョンケアが必要なケースを見つけて必要な支援やサービスに橋渡しするのも重要な役割です。眼科メディカルスタッフの皆様はロービジョンケアの入口の役割を担っています。本講演が「見えにくい方」に対して出来ることを意識するきっかけになれば幸いです。

四宮 加容 先生
「未来の危機に備える~災害医療現場の視点から」
1995年は、ボランティア元年といわれている。1月17日に発生した阪神淡路大震災での市民ボランティアの活躍に由来する。日本における災害医療の始まりの年でもあろう。そして私が眼科災害医療に目覚めた年でもあった。
1995年1月17日5時46分 徳島大学の宿直室で寝ていた私は、大きな揺れで飛び起きた。地震だ!すぐ病棟に電話して被害確認を指示。患者に被害はなかった。医局を見に行くと、棚から本が落たり引き出しが飛びたしていた程度だった。 しかしその後テレビから、神戸での信じられない被害が伝えられてきた。ひっくり返る高速道路、燃えさかる街、助けを求める人々。徳島からも日赤医療班などが救援に向かっていた。「こんな時に眼科医には、いったい何ができるのか」という思いが私の中に沸き起こり、大きなシコリとして胸に残った。
2011年3月11日 東日本大震災が起こった。阪神淡路大震災とは異なる津波による悲惨な被害が伝えられた。阪神淡路の教訓から日本医師会は、JMATを配備していた。兵庫県医師会の川島龍一会長(当時)は、全国に先駆けJMAT兵庫を編成し、宮城県石巻市に派遣した。私が、眼科医として参加を申し出たところ、快く医療班第3陣に加えていただき、石巻中学校の避難所で3月24〜27日まで眼科医療を行った。そして私の中のシコリは吹き飛んだ。災害時に眼科医療のニーズは早期からあったのだ。この時の様子は、「臨眼 66(8)1185-1189、2012」をご参考いただければ幸いである。その後も2016年4月14、16日の熊本地震、2018年7月豪雨災害など、機会がれば現場に足を運んだ。
東日本大震災以後も災害医療は進化し続けている。最近は、新型コロナウイルスという古くて新しい感染症という世界的災害への対応が課題となっている。
本講演では、災害医療に必須の「CSCA TTT」などの概念をおさらいするとともに、未来の危機に備えるために何をすべきかを、阪神淡路大震災から現在に至る災害医療現場の視点から読み解いていく。

兵庫県災害医療コーディネーター
兵庫県眼科医会 常任理事(公衆衛生担当)
松田アイクリニック 理事長
松田 聡 先生